駐車場警備員の詩(うた)

警備に関する雑詠です。たまに普通の記事を書きます。

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ホタル祭り警備日誌-1-

「ちょっと早かったか・・・」
丸川隆志は時計を見た。11時20分だった。
5月最後の土曜日は、ホタル祭りのイベント警備で会社に12時集合と連絡を受けた。
会社の1階は社有車の駐車場になっている。階段の横に3人掛けのベンチがある。そこで一緒に働く人を待っていた。通勤マイカーは隣の有料駐車場に入れた。


丸川は昨冬に65歳で定年退職した。元気だしまだ働きたいのでハローワークで仕事を探した。65歳以上の仕事として警備員と清掃員それと運転手の求人が多かった。その中で長く務めることができそうで家から近くにあるボートレース場の警備員を選んだ。半年が過ぎ仕事にも慣れた。
レースのある日は場内で勤務をする。空調が効いて快適だ。レースの無い日は休みとなるか要請に応じて駐車場やイベントの警備に出かけている。


「丸川さんですか?」
階段から降りてきた人に声を掛けられた。立ち上がって振り向くと日によく焼けた白髪が目立つ男性がいた。
「北尾です。今日一緒にホタル祭りに行くことになっています。よろしく」
「丸川です。よろしく願いします。ところで『ホタル祭り』ってなんですか?」
「よくわかんないけど、縁日のお祭りのようなんです。社員の吉野君が一緒に現場に行って説明してくれます。場所は近くの松林公園のそばです。車で10分たらずです」


K市では初夏のほたる飛翔の季節に合わせ「黒川ほたる祭り」を開催している。
ホタルの生態研究ブース、歌や演奏などのステージ、最新ラリーカー展示、人気キャラクターショーやB級グルメフェス、出店、フリーマーケットなど一日中遊べるイベントだ。お楽しみ抽選会やバザーなども行われる。
13時に消防局のブラスバンド演奏で始まり18時にガールズバンドのライブが終ると仮設ステージでのプログラムは終了となる。


間もなく12時となる頃に車が会社の駐車場に止まり私服の男が出てきた。
「あ、北尾さん。お久しぶりです。今日はホタルですか?」
北尾がうなずいた。
「場所はどこですか。何人で何時まで勤務ですか。駐車場警備ですか。あ、お隣の方もご一緒ですね。ということは今日は3人ですね
丸川は目をむいた。男は知りたいことを一度に尋ねた。なにより12時集合というのにギリギリに来たことが信じられなかった。

ボートレース場勤務では定刻の30分前に出社しても遅いと言われる。
1時間前に出てきてお湯を湧かして備品の整理や在庫調査を始める。つまり早く来て仕事をすることが真面目であるという尺度になっていた。
丸川はそこに違和感があった。しかも先輩の中に威圧的な言動が目立つのが何人かいてストレスになっていた。
我々パートか契約社員というのかよくわからないが所詮コマだろう。やれと言われた仕事をこなせばいいはずだ。会社勤めの管理者となると、自分の身を削ってでも調整ややりきらなければいけない仕事がある。そうなると1時間朝早く来る意味もあるがパート警備員が同じように早く出社してもすべき仕事はないのだが威張っている先輩たちにわからない。


丸川は座ったまま「丸川です」と言った。
「あ、コウノです。かおる野原で香野です。今日はよろしくお願いします」
と言いながら制服に着替え始めた。
丸川は内心で、北尾さんが70歳前で、香野が60過ぎか。俺が65歳でこの中で平均年齢だろうと思った。
着替えた香野は信じられないことを言った。
「北尾さんのスポーツカーが奥に止まっていますね。その後ろに私の車を置いていいですか?」
また丸川は目をむいた。『マイカーは隣の有料駐車場に止めるのがルールだろう。知らないのか?』
北尾は、
「俺は会社の車を運転して現場に行くから会社の駐車場に置いていいの。そうじゃない人は会社に聞いてよ」
と言うと「はい、聞いてきます。駄目でもともとですから」と言って2階に上がっていった。
隣の有料駐車場は1時間100円だが12時間までなら500円と割安になる。だけど会社の駐車場なら無料だ。
香野がにこにこして降りてきた。
「オッケーでした。北尾さんの後ろに止めます」
(つづく)


作者注:この調子で進めますと大作になってしまいますので次回以降は簡潔にします。

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