駐車場警備員の詩(うた)

警備に関する雑詠です。たまに普通の記事を書きます。

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ホタル祭り警備日誌-4-

丸川は待機休憩を終えて、音楽ホール玄関横で北尾と交代した。
北尾は「出店で売っているハンバーガーを食ったよ。600円もしたけどうまかったなあ」と言った。
帽子を脱いで上着をはおって警備員と分からない服装であれば一般の人と同様に買い物ができる。北尾は小ぶりの手提げ袋に水筒と薄手のジャンバーを入れ足元に置いていた。


ソフトクリーム発売ロボットに30人くらいの待ち行列ができていた。特に混雑もない。おとなしく2列で待っている。丸川は並んで200円のソフトクリームを買う意味が解らなかった。近くのコンビニで買うほうが手っ取り早いだろう。
香野は販売ロボットの動作をまじまじと見ていた。よくできていると感心した。
お金を入れてスタートボタンを押す。ロボットの腕が動き出す。コーンをセットしソフトクリームを巻く。チョコレートか蜂蜜などのソースを掛ける。そして受け渡し台に置いて受け取るまで2分弱ほど掛かっている。
まだ人手の方が早く販売できそうだ。費用を掛ければロボットも高速化するだろうがコストパフォーマンスが悪く意味がないと納得した。

(青い箱の中にロボットが入っている。係員がお客に操作説明している)


丸川は音楽ホールを背にして後ろ手をして立哨した。
ここ2番ポストは、目の前の道路を多くの人が通る。隣の音楽ホールに出入りする人も多い。
前のテントでは「金魚すくい」が見える。子どもたちが次々にやって来る。遠目ではあるが本物の金魚ではなくプラスチックか何かの駒のようだ。
香野のように持ち場を離れて見物するのは警備員として良くないことだと生真面目に考えていた。


休憩していた香野が交代のために駐車場から現場に向かった。
交差点の信号が青だった。香野は走って信号を渡った。警備員は走るなと言われている。
警備員が走るときは緊急時だけだ。走った時点で緊急事態が起こったと周りに思わせたらいけない。
信号を一回待つと何分か交代が遅れてしまう。せっかくだから早く替って休憩してもらいたい。香野は早目に休憩を切り上げる。信号が青から赤に変わりそうなら走って渡る。周囲の人も信号を渡りたい警備員が走ったと分かるだろう。


歩道で外人の母子に会った。二人は手をつないでいた。
香野は思わず「はろー」と言った。母親は「コンニチハ」と笑顔になった。小さな女の子がもじもじしていた。女の子に向ってもう一度「はろー」と声をかけた。
香野は自分でも発音が悪いと思っている。「Hello」であるが「ハロー」ではなく「はろー」のような気がする。だから女の子に通じないのだろう。
母親が「ハローって言いなさい」と女の子に耳打ちしているようだ。
手を振りながら「あはは、はぶあぁないすでぃー」と言って交代に急いだ。


その頃、丸川は女性の怒鳴り声を聴いた。
音楽ホールの玄関の向こう側から聞こえた。右を向くと母親らしき女性が仁王立ちになって小さな男の子を叱っていた。
ついに手が出た。ビンタをした。母親は何か言っているが丸川まではっきりと聞こえない。
男の子は泣き出しそうな顔をしている。ホッペが赤くなった。もう一発反対側に手が出た。男の子は後ずさりした。
丸川は困った。どうしていいのかわからなかった。
「交代します。何を見ているのですか」と香野がやってきた。
「あ、あれ。先ほどから子供を叱っているのだが何発もビンタしている・・・」
香野は「そうですか。止めなきゃ」と言って母親の方に歩いて行き声をかけた。
「もしもし、差しでがましいことかもしれませんが、もう怒らないで下さい。何があったのかわかりません。拝見したところしつけではなく虐待しているように見えます。もう叩かないで下さい」
そう言うと子供が耐え切れなくなったのか「わーん」と大きな声で泣き出した。若い母親は子どもを見据えて「泣くな」と言って頭を張り飛ばした。
ひどい母親だと思ったがこれ以上声をかけるとますます興奮するかもしれない。しばらく静観することにした。
若い母親は何も言わずに子供の手を引いてその場から離れた。
丸川は歩道で立哨している北尾と交代するために移動し香野は音楽ホール玄関脇の持ち場に戻った。
(つづく)

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