花冷えや袖にしみこむ雨の音
花冷えの雨の中、速達を出すために郵便局へ向かった。
16時30分の回収に間に合わせようと小走りになる。
車は女房がパートで使っており、自転車は泥除けも前かごもないスポーツタイプなので雨の日は使えない。
帰りにマックスバリュへ寄った。
傘をどうしようかと思っていると、入口脇に簡単な傘立てがあった。
図書館のような鍵付きではなく、差し込むだけの昔ながらのものだ。
いつもは車か自転車で来るので、傘を差してスーパーに入るのは初めてだった。
今どきは傘を盗む人も少ないのだろう。
その傘立てを見て、ふと昔のことを思い出した。
1981年、神戸ポートアイランドができた年に高砂市へ出張していたときのことだ。
日曜でいつもの食堂が休みだったため、ホテル近くの小料理屋に一人で入った。
女将が一人で切り盛りするこじんまりした店で、雨の夜、客は私だけだった。
九州からの出張であることや、休みにポートアイランド博覧会へ行った話などで会話が弾んだ。
そこへ常連らしい中年の男性が入ってきた。
会計を済ませ、傘立てから自分の傘を取った瞬間、その男が振り返って怒鳴った。
「俺の傘を盗るな」
驚いて自分の傘を見せると、女将が慌ててとりなしてくれた。
結局、その店には二度と行かなかった。
花冷えの雨に濡れた傘を傘立てに差しながら、44年前で28歳の頃の、そんな昔の出来事を思い出した。